トイレは不平等!?
 トイレは不平等だ。
 私は普段からそう思っていた。
 そしてそれを今いつも以上に強く感じている。

 今日は大事な就職面接の日。
 そのため前もってトイレを済ませてから家を出た。
 しかし、面接は予想以上に長引き、お茶を何回も出された。
 面接が終わった時には再度トイレに行きたくなってしまっていた。
 私はすぐにトイレを探した。
 慎重派な私はいつも早めにトイレに行くようにしていた。
 だが、いつもうまくいくわけではない。
 その日もなかなかトイレを見つけられずにいた。
 次第に焦りだしていく私。
 余裕がなくなり限界が近づいていく。
 そして限界寸前もう漏れそうだ・・・・というところでなんとか見つけたファッションビル。
 急いで飛び込み女子トイレへ走るもそこには既に5人の人が並んでいた。

 「ねぇ、やっぱり並んでるし帰りに駅のトイレに行けばよくない?」
 「うーん、でも駅のトイレよりこっちの方が綺麗じゃん!」
 買い物帰りと思われる若者がそんなことを言っている。
 「ママ、並んでるね!」
 「そうね、でもあとでしたくなると困るからしてきちゃいなさい。」
 そんなことを言っている親子もいる。

 不平等だ・・・・。

 私は今まさに漏れる寸前の状態だ。
 1分後、いや1秒後にズボンを濡らしてしまっても不思議ではない状態だ。
 なのに余裕の表情で並んでいる他の人たちと同じ時間を待たないといけない。

  ”先に行かせてください! 漏れそうなんです! 助けてください!”

そう叫びたいが22歳の大人としてそれはできない。
ギュッと脚を閉じ、体をふるふる震わせながら自分の番を待つしかない。


 (漏れちゃう漏れちゃう漏れちゃう・・・・。)

 昔からトイレが近かった私。
 何度もピンチを経験している。
 だが、今回は過去でも五本の指に入りそうな大ピンチだ。

 (だいたいなんでトイレが1種類しかないのよ・・・・・。)

 前に並んでいるほかの人たちとは違う。
 綺麗だから使っておきたいとか早めに済ませて安心しておきたいとかではない。
 ズボンを濡らすという最悪の事態を避け人間としての尊厳を守りたい。
 ただその一心でトイレに並んでいるのが今の私だ。
 パンツを下してお尻を出せればいい。
 他に何もいらない。

 (例えば汚れているトイレとか・・・・。)

 今ここにある綺麗なトイレのすぐ隣に汚くて掃除が行き届いていない悪臭の漂うトイレを設置。
 余裕のある人は綺麗なトイレに並び、漏れそうな人は汚れているトイレに入る。
 それなら平等と言えるのではないか。
 実際今の私であればどんな汚くて臭いトイレであっても入ってしまうだろう。
 ズボンを濡らし人生を終わらせるよりはマシだ。

 (もしくは、鍵がかからないトイレとか・・・。)

 お尻を出してしゃがんでいる途中でドアを開けられ見られてしまうかもしれないトイレ。
 普段だったら絶対に使いたくないだろうが今の私にとっては違う。
 ズボンを濡らすというなんとしても避けるべき事態を回避できるのならお尻くらいいくら見られても構わない。

 (むしろもう・・・・。)

 海外とかにある足が見えてしまうトイレ。
 もうそれでもいい。
 見られても構わないからズボンを濡らすのだけは・・・・。

 (あ、あうっ!!)

 そんなことを考えて現実逃避してもズボンとパンツの大ピンチからは逃れられない。
 膀胱から漏れかかりそうになり思わずズボンの上から出口を押さえるが、すぐに冷静さを取り戻し足を両手でスリスリしてごまかす。

 (もうこうなったら・・・・。)

 いっそのことまったく隠せていないトイレ。
 ドアも個室もいらない!
 この女子トイレの端っこの狭い僅かなスペースに用を足せる装置が1つあるだけでいい。
 イメージ的には男子トイレの小便器みたいだものだ。
 それくらいならばスペースも取らないしすぐに設置できるはずだ。
 もちろん私は女だから男の人のようにズボンを履いたまま立ってすることはできない。
 他の人が見ている前でズボンをパンツを脱いでお尻も丸見え排泄する姿も丸見えにしてしまう。
 通常の状態であればたとえ同性のみとはいえ絶対に使わないだろうが今のような超絶ピンチ瀕死、爆死ギリギリの状態だったら・・・。
 いやさすがにそれは・・・・。
 したい!!
 今すぐしないともう私の人間としての尊厳が・・・・。

 (ってそんなこと考えても誰もそんなトイレを作ってくれないよね・・・・。)

 そもそもそんなトイレがあったらビルの管理会社にクレームが殺到することだろう。
 冷静に考えよう・・・・。
 そんな変なトイレが存在していいわけがない。
 発想を変えないと・・・・・。
 例えばオバケがいて入ると呪われるトイレとか・・・・。
 もうこのままズボンを濡らして人生終わるくらいなら呪われて方が・・・。
 ってどうやってピンポイントにこのトイレにオバケを連れてくるのよ!
 ああっ!! 漏れる漏れる漏れる漏れる漏れちゃう!!

 (余計なことを考える場合じゃない!)

 オバケがいるトイレとか見られるトイレとか汚れたトイレとかじゃなくてもっとシンプルに・・・・。
 例えば・・・・・そう、あれだ! 
 有料のトイレ!
 これならばシンプルだ!
 普段は早め早めにトイレに行くようにする。
 ついトイレを忘れて漏れそうになってしまったとき。
 もしくは今の私のように不幸にも早めのトイレができなかったとき。
 そんなときだけ有料のトイレを使えばいいんだ。
 お金を払いたくない人は長い列に並んで普通のトイレを使えばいい。
 お金を払ってでもトイレに行きたい人はお金を払って有料にトイレを使えばいい。
 これならば誰も文句は言わないだろう。
 100円だろうが200円だろうが構わない。
 ズボンとパンツを濡らすクリーニング代と比べれば安いものだしそれより何よりトイレを失敗するという屈辱的な経験はいくらお金を積んでも消すことができない。

 (ああっ!!)
 
 そんなことを考えている間にも膀胱は限界を迎えつつある。
 そして遂にパンツの中に少しづつ漏れだしてしまっている。
 22歳にもなってパンツを濡らす・・・。
 それだけでも決してあってはならないことだ・・・。
 だが、このままではズボンまでも濡らしてしまい・・・・。

 (トイレ・・・・トイレトイレトイレ! なんでもいいからトイレをちょうだい!!)

 ズボンのクリーニング代を考えれば1000円・・・。
 いや、ズボンを濡らさなくて済むなら1万円。
 いやいや、人間としての尊厳を守るためなら10万円払ってでもいい!!
 オバケが出るトイレでもいい!
 呪われるトイレでもいい!
 まったく隠せていないトイレでも・・・。
 鍵がかからないトイレでも・・・・。
 汚れているトイレでも・・・・。

 (なんでもいいから・・・・。)

 パンツの中に生暖かい感触が広がっていく。
 いくら必死に考えてもどうしようもならない。
 ここには有料のトイレもない。
 オバケが出るトイレもない。
 呪われるトイレもない。
 鍵がかからないトイレも汚れているトイレも隠せないトイレもない。

 あるのは順番待ちの列があるトイレのみ。

 (どうして・・・。)

 生暖かい感触が足を伝っていく・・・。
 おそるおそる下をみる・・・。
 ズボンがわずかに変色している・・・。
 遂におそれていた最悪の事態を迎えてしまった・・・・。
 
 (せめて・・・・。)

 周囲の人が私の恥ずかしい失敗に気づく前にトイレにさえ入れれば・・・。
 最悪な状況の私にとってほんの少しの救いになるかもしれない・・・。
 しかし、それすら無理だ・・・・。
 目の前にあるトイレには順番待ちの列があり入ることができない。
 綺麗で鍵もかかるオバケもでない呪われない無料の立派なトイレがすぐ近くにあるのに・・・。 

 (そこにさえ入れれば私は・・・・。)

 生暖かい感触は靴の中にも広がっていった。
 ズボンの変色した部分も面積を広げる一方だ。
 周囲から声が聞こえ始めた。
 ”信じられない!”
 ”いい年して恥ずかしい!”
 そんな声が私の心をよりいっそう惨めにさせる。

 (こんなのおかしいよ・・・。)

 そうよ・・・。
 おかしいのよ!
 トイレが不平等だとかそんな問題ではない!
 トイレに対する社会の認識がおかしいのよ!

 人間以外の動物たちはみんなズボンもスカートも履いていない! パンツだって履いていない!
 トイレの場所を決めずに毎回違う場所でする動物もいる!

 人間はトイレという決まった場所で排泄を行う。
 その場所(トイレ)が混雑していれば待たないといけない。
 そして、トイレの前にズボンを脱いだりスカートを捲ったりしてパンツを脱がないといけない。
 他の動物にはできない高度な排泄を毎日こなしている!

 なのにたった1回それに失敗したからと言って人間性を否定するような言葉を浴びせるとはどういうことなのか?
 ”あらもうしょうがないわねー。”
 ”次から気を付けないとね!”
 となるのが正しい社会なのではないのか?

 人間はあまりにもトイレに厳しすぎる!
 もっとトイレに対して寛容な社会になれば私だけでなくトイレに悩む全人類が幸せになれるはず・・・・。

 (おかしい・・・おかしいわよ絶対に!)

 必死でそう考えるがトイレに寛容な社会はすぐには生まれない。
 周囲からの冷ややかな視線はなくならない。
 濡れたズボンももとには戻れない。
 パンツの不快な感触もそのままだ。
 22歳にもなってトイレを失敗してしまったという事実は消すことができない。

 (おかしいのよ・・・。)

 目から自然と涙があふれてきて止まらなかった。
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